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改正相続法案〜配偶者の生活権の保護

九石 拓也

 平成29年に成立の債権法改正に続き,相続法の改正案(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案)が,現在の第196回通常国会で審議されています。

 今回の相続法改正では,約40年ぶりの大幅改正として,遺産分割,遺言,遺留分等に多くの重要な見直しが図られています。

 以下では,今回の改正の主要な目的のひとつである配偶者の居住権の保護に関する改正点として,配偶者居住権の新設と,配偶者に対する持戻免除の意思表示の推定を取りあげます(条文は改正法案)。

(1)配偶者居住権の新設

 高齢化社会の進展に伴い,配偶者の居住の権利を保護する必要性の高まりを受け,改正法案では,配偶者居住権,配偶者短期居住権が新しく設けられています。

ア 配偶者居住権

 配偶者居住権は,配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に,原則として終身(存続期間を定めた場合はその期間),居住建物を居住など無償で使用収益できる権利です(1028,1030条)。登記することで居住建物の所有権を取得した第三者にも対抗することができます(1031条2項)。

 現行法では,居住建物が遺産の大きな割合を占める場合に,配偶者が居住建物の所有権を取得すると,生活資金となる預貯金等の取得が難しくなることがありました。配偶者居住権の新設により,自宅の所有権(配偶者居住権の負担付)と居住権を分けることで,居住を継続しつつ生活資金を確保する遺産分割がしやすくなるでしょう。

 配偶者居住権は,遺贈または遺産分割協議により取得します(1028条1項)。予め遺言により配偶者居住権の遺贈を定めておくことが,後日の紛争防止に役立ちます。

イ 配偶者短期居住権

 配偶者短期居住権は,配偶者が相続開始後,遺産分割終了まで(少なくとも相続開始から6ヶ月を経過するまで),居住建物に無償で居住できる権利です(1037条)。相続開始により当然に発生する権利で,配偶者居住権のように遺言等で定める必要はありません。

 従来,相続開始による使用貸借契約の成立を推認する判例により一定の保護を受けてきたものですが,推認が困難な場合も対象とする法定の権利として定めたものです。

(2)配偶者に対する持戻免除の意思表示の推定

 改正法案では,婚姻期間が20年以上となる夫婦間で住居やその敷地を生前贈与や遺贈した場合,特別受益の持戻免除の意思表示を推定し,原則として遺産分割の計算の対象に含めないこととなりました(903条4項)。

 現行法では,住居の贈与等も含め特別受益がある場合は,原則として特別受益分も遺産分割の計算の対象とされますが,例外的に被相続人が持戻しを免除したときには特別受益を考慮しない扱いです。改正法案では,20年以上の夫婦間の住居の贈与等に関し,この扱いが逆転します。住居の贈与等を特別受益として考慮しないことで,住居以外の遺産の取得がしやすくなり,配偶者の生活の保護が図られることになります。

(3)施行日と経過措置

 配偶者の生活を保護する上記各制度ですが,施行時期にも注意が必要です。

 改正法の施行日は,公布の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日とされています(附則1条)。ただし,配偶者居住権及び配偶者短期居住権に関する規定の施行日は,公布から2年を超えない範囲において政令で定める日とされています(附則1条但書4号)。

 遺産分割を原因とする配偶者居住権及び配偶者短期居住権は,施行日以降に開始した相続から適用されます(附則10条1項)。

 また,遺贈を原因とする配偶者居住権は,施行日前の遺贈には適用されません(附則10条2項)。遺贈により配偶者居住権を定める場合には,施行日以後に遺言を作成する必要があります。

 配偶者に対する持戻免除の意思表示の推定規定も,施行日前にされた遺贈,贈与については適用されません(附則4条)。持戻免除としたい場合には,遺言等でその意思を明確にしておくべきでしょう。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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