弁護士コラムバックナンバー

定期購入と継続的な契約の出口

高木 篤夫

 インターネットでの通販などの契約で「定期購入」というものを知っていますでしょうか。

 「定期購入」とは,たとえば健康食品などか一カ月に一回一カ月分を定期的に送付されてくるというような契約のことです。雑誌などは定期購読という制度がありますが,雑誌類でなく定期的に消費するような商品においては,定期購入は消費者にとっては毎回購入手続をしなくても補充してくれるし,きちんと消費するつもりなら便利なことも多いです。2017年には「お試し価格」といって格安で「一回目○%OFFの500円」とか「実質無料。送料のみ」といった広告で健康食品等の申し込みを受け付けるサイトについてのトラブルが多発していました。「お試し価格」との言葉に釣られて,一回格安でお試し購入ができるだけと思っていたら,実は申し込み内容には定期購入が約束させられていて,二回目の商品が送られてきてはじめて定期購入だと気づき,「継続的に買わなきゃいけないなんて,そんなつもりじゃなかった」とあわてるというわけです。しかも,最低○回は購入しないとやめられないなどというお試し購入するには条件が付いていたりしました。

 事業者にそんなつもりじゃないといっても,ちゃんとホームページに定期購入だと記載してあるとか言われてしまったりということもあります(お試しの部分の表示に比してわかりにくかったり,申し込みの際に承諾することになっている規約の中にそういう条項が実は入っていたりする)。あるいは,定期購入はしないでいいけれども,それなら通常価格で購入ということになりますというようなことを言われて,500円のはずが通常価格として10000円以上請求されるというようなこともあります。

 インターネット通販は,通信販売なので,クーリングオフも適用されません(通信販売にもクーリングオフがあると誤解されているようならばここで認識を改めましょう。)。また,通信販売には法定返品権(15条の3)というものもありますが,仮にその通販サイトでは返品特約がなく法定返品権が適用されるとしても,法定返品権の要件には商品が届いてから8日以内とかいう期間制限があるので,最初の1回目のお試し購入のときに気づかなければ2回目に商品がきたときには8日などはとうに過ぎてしまっています。

 定期購入等については,昨年の改正特定商取引法の施行にあわせて,省令で定期購入の表示義務について追加して一定の規制がなされるようになりました。

 具体的には,表示義務について次のような表示をしなければならないことになりました。(特定商取引法の条文関係はhttp://www.no-trouble.go.jp/law/で参照できます)

(省令8条7号)

 商品の売買契約を二回以上継続して締結する必要があるときは,その旨及び金額,契約期間その他の販売条件

 そして,これを具体的に解釈する通達では

 (チ) 省令第8条第7号の「商品の売買契約を二回以上継続して締結する必要があるとき」について

 例えば、「初回お試し価格」等と称して安価な価格で商品を販売する旨が表示されているが、当該価格で商品を購入するためには、その後通常価格で○回分の定期的な購入が条件とされている等、申込者が商品の売買契約を2回以上継続して締結する必要がある場合の表示義務事項である。「その他の販売条件」には、それぞれの商品の引渡時期や代金の支払時期等が含まれる。

 なお、1回の契約で複数回の商品の引渡しや代金の支払いを約することとなる場合は、法第11条第1号から第3号までの規定により、買い手が支払うこととなる代金の総額等の条件を全て正確に記載しなければならない。

 これで定期購入だと思わなかったという消費者被害は多少鎮静化したとはいうものの,やはりわかりにくい表示をする事業者はあとをたちません。

 特定商取引法の表示義務は行政規制なので(景品表示法の不当表示もそうですが),これに違反していたとしても原則として契約の効力には影響を及ぼしません。表示がおかしいといってもそこからすぐに契約が無効だとか取り消せるというわけではないのです。一回きりだと誤解したとか実は一回きりのお試し購入の契約しか成立していないというのは,申し込みと承諾という契約が成立するための意思の合致がどの範囲であったのかあるいは合致していないとか,仮に外形上契約が成立していたとしても錯誤(民法95条)だから取り消せるとか,そういう話をしていかなければなりません。

 東京都の被害救済委員会で,この定期購入の案件を扱ったことがあるのでどういう法的構成かどう解決したかを詳説した報告書をみることができます。興味があれば参照してください。(https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/sodan/kyusai/documents/76houkokusho.pdf

 実は,今回は,定期購入の話が主体ではなく,こうした定期購入契約のような継続的な契約の場合の解約方法については一般的にかなり問題があったりするのではないかということを書こうと思って定期購入の話を持ち出しています。

 インターネット通販で,PCでもスマホでも簡単に契約できるのに,解約については電話でないと受け付けないとか,解約するには一定の条件が必要とか,定期発送することを理由にしているのかわかりませんが解除できる期間が制限されている(次回発送準備に間に合う期間内を設定していつでも解約できるわけではなかったり)など,解約の敷居が高くなっています。しかも,電話しかだめとうたいながら,全然つながらないとか。

 最近の契約には継続的な役務提供とか商品供給を前提とする契約も増えてきています。いわゆる継続的契約というもので,それがインターネットを通すといとも簡単な手続でできるのが現状です。契約の広告や勸誘段階では,各種の表示の規制や解約権や取消権が立法化されています。しかし,解約という契約の出口の問題になると解約方法については特定商取引法で特定継続的役務提供契約の類型で一定の種類の契約のみが中途解約権が法定されているくらいしかありません。現在契約の入口での規制や契約の効力を覆す手当てはあるけれども,解約の方法について具体的な法規制はありません。少なくとも,インターネットでいつでもどこでも簡単に申し込めるというように契約の成立を容易にするような手だてを講じて契約を締結するならば,解約の手続も同様の容易さをもたせて契約を解消させなければならないというようなことを考えていく必要があるのではないでしょうか。

 これまでも,世の中の契約が多層化したり複合化したりしていて,一回の契約手続でやれあれもこれもと一緒に契約させられるが,解約するときは契約の相手がそれぞれ区々であったり,それぞれの解約手続を別個にしなければならないというようなことがトラブルになっていた。

 たとえば,インターネットの回線を変更したときに,無意識に一緒にプロバイダー契約も結ぶことになったが,それまでのインターネット回線で利用していたプロバイダ契約を解約していなかった。すると,二重にプロバイダ契約が存在していて銀行通帳をみたら二つのプロバイダから引き落としがずっとなされていてびっくりするとかいうことがあります。これも,解約のときには契約時に一緒に契約したのであれば解約時には少なくとも一緒に契約した他の契約の解除方法を示さなければならないなどいろいろなトラブル防止策は考えられるものと思います。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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