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カンボジアにおける会社設立体験記

弁護士法人ひかり総合法律事務所
代表社員 藤原宏高

1.はじめに

 地元のライオンズクラブに加入して30年になりますが、5年前よりボランティアでカンボジアにおける学校建設事業をお手伝いすることになりました。カンボジアにおけるボランティアが私のライフワークになったことから、カンボジアで不動産を購入する余地はないものか検討した結果、自らカンボジアにコンサルタント会社を設立して、不動産まで購入致しましたので、日本では分かりにくいカンボジアにおける会社設立のポイントを解説させていただきます。

2.カンボジアとは

 ポルポト派との内戦があり有識者層が虐殺されたため、国の経済発展が遅れ、東南アジアの中でも貧困な国であるカンボジアは、日本を含む海外の支援を受けて、ようやく自らの力で立ち上がろうとしています。

 首都であるプノンペンでは、大規模な工場進出や不動産開発が行われるなど、発展のスピードはめざましい反面、世界遺産アンコールワットのあるシェムリアップは、まだ田舎町の風情が残っています。

 現在の政治体制は、王制が復活しているものの、選挙による民主国家であり、立憲君主制といわれています。日本も独立行政法人国際協力機構(JICA)が中心となって、長年にわたり「カンボジアの安定した経済成長と均衡のとれた発展のため、インフラ整備や農業振興など経済基盤の強化、保健医療や教育など社会開発の促進、法制度整備などガバナンスの強化を重点的に支援」(JICAホームページ)してきています。

3.会社設立の規制

 カンボジアでは、外国人もカンボジア人と共同出資(外国人の出資比率は49%以内)をすることにより、カンボジア法人を設立することが認められています。私もライオンズクラブの友人に51%を出資してもらい、コンサルタント会社を私的有限責任会社(Private Limited Company)として設立しましたが、日本の株式会社と似ています。資本金はKHR4,000,000(約1,000ドル)から設立できますし、取締役1名の場合でも、外国人が取締役になれるのは大きな利点と言えるでしょう。

4.会社設立の手続

 カンボジアにおける会社設立の手続は複雑で理解が難しいので、プノンペンの法律事務所にお願いしました(なお,JICAでは「カンボジア会社設立マニュアル」を公表しています)。

 商業省(Ministry of Commerce)への申請及び設立証明書(Certification of Incorporation)の取得と租税総局(General Department of Taxation)への申請の2段階の手続が必要となります。

 商業省への申請のため、定款(Article of Incorporation)を英語及びクメール語の双方で作り、各ページに出資者全員がそれぞれ青いボールペンでサインをしなければならないなど、独特な慣習に驚きました。また、全株主の写真を提出しましたが、同様に写真の裏に青いボールペンでサインをしなければなりません。

 その後、商業省から会社設立証明書が発行され、オンラインで入手できるようになったので、資本金を預託する銀行口座を開設しようとしましたが、予想外に苦労しました。租税総局で事業登録税(Patent Tax)の登録を行い、Patent Taxと呼ばれる書類を銀行に提出しないと銀行口座が開けなかったのです。

 加えて、シェムリアップの銀行からは、株主2人が出頭しないと、銀行口座は開設できないと言われ、株主2人で銀行に行きました。しかし、私の会社は定款上,株主には銀行口座から預金を入出する権利はないので、口座開設の書類に株主2人がサインすることはおかしいと交渉しました。ようやく理解してもらって、別の書類にサインして、取締役としての口座開設ができました。これでカンボジア法人として、銀行を経由して資金移動ができるようになりましたが、これも、カンボジア人による名義貸しを防ぐための方策でしょうか。

 最後に、租税総局への出頭が必要で、これでようやくカンボジアにおける会社設立手続は終わりました。事前に法律事務所からは必要書類の英語版リストをもらっていましたが、あまりにも日本の手続と異なるので、遙かに予想を超えていました。

 その後、カンボジア法人は無事にカンボジアで不動産を購入することができました。私が設立したカンボジア法人は、今後、海外からカンボジアで会社を設立する際、内国人として51%の出資を行うことができます。

 不動産購入に関するポイントは、次回に譲ります。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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