弁護士コラムバックナンバー

マンション防災と改正個人情報保護法

清水 敏

1 はじめに

普段生活していると、あまり法律について意識をする機会というのはないのかもしれませんが、突然、「新しい法律が出来たのでこれからきちんと守れ」と言われたらどうしますか。

とあるマンション管理組合の理事から、戸惑い交じりの相談を受けました。

改正個人情報保護法が平成29年5月30日施行されましたが、マンション居住者名簿を作る際にも個人情報の厳格な管理を求められることになってしまう、どうすればよいのか?というものです。

2 災害時におけるマンション管理組合の重要性

首都近郊ではここ数十年の間に首都直下型地震が発生すると予測されています。

しかしながら、行政機関などの公的な機関の能力には限界があり、特に被災直後は災害対応に警察や消防は忙殺され、住民は自力で生存を図らなければならない局面に遭遇することも想定しなければなりません。

そこで、地域のコミュニティとして自治会やマンション管理組合が災害対応の中心となることが求められております。各都道府県宛ての総務省通知(平成27年5月12日付総行住第49号)においても、マンション管理組合を自主防災組織にすることを推奨しております。

マンション管理組合としても、的確に被災者、特に障害者や高齢者の災害時要援護者のニーズをとらえることが必要なのです。居住者名簿はマンション管理組合にとって災害時要援護者の把握にも資するものですが、この居住者名簿に個人情報保護法の規制が及ぶことになったのです。

3 個人情報保護法とは

個人情報保護法の目的は「個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護すること」で(第1条)、個人情報の利活用と個人のプライバシーなどの権利の保護のバランスを図っています。

個人情報保護法は、個人の権利を保護するものですが、「個人情報を使うな」と言っているのではなく、防災のために個人情報を利活用することも推進しているといえるでしょう。

また、「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(第2条)とされています。

居住者名簿には、部屋番号、世帯主、居住者、電話番号、災害時対応として医療関係従事者などであるか、ボランティアの希望の有無、さらには、高齢、障害のために要支援者であるかどうかなどが記述されますが、氏名と紐づけて各々記述されており、個人を特定するものとして、これらの各記述は個人情報に該当し、個人情報保護法の規制の対象となります。

4 マンション居住者名簿の作成の実際

それでは、どのようにマンション居住者名簿を扱えばよいのが概説しましょう。

(1)個人情報収集の際の規制

居住者情報を集める際に、居住者情報の利用目的をあらかじめ特定しなければなりません。例えば、「居住者名簿を作成し、マンションの管理運営や災害時の災害時要援護者の把握のため」などと利用目的を特定する必要があります。

本人から居住者情報を取得する場合には、本人に対して利用目的を通知、公表しなければなりません。例えば、居住者情報を集める際に記入する用紙に、利用目的を記載することなどで対応できます。

(2)個人情報保管の際の規制

集めた居住者情報の漏えい防止のために安全に管理することが求められています。例えば、紙媒体であればカギのかかる棚に保管するとか、電子媒体であればパスワードを設定するなどが必要です。

また、本人から居住者情報の開示・訂正などを求められた場合には、適切に対応する必要があるので、対応が出来る体制を整えておくことが求められています。

5 おわりに

災害の際にマンション管理組合は地域の自主組織としての役割を担うことが期待されております。

その災害時にも活用できる居住者名簿は極めて重要なものです。マンション管理組合は、個人情報保護法の規制に萎縮や過剰反応するのではなく、弁護士や自治体に相談しながら、十分な防災体制を整えてください。

以上

(注1)

詳細については石井夏生利『新版 個人情報保護法の現在と未来』(勁草書房,2017年)37頁以下,「特集1・EU一般データ保護規則施行への対応」ビジネス法務2017年8月号を参照。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
このコラムを書いた弁護士に
問い合わせるにはこちら
関連するコラム
↑TOP