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暴力団離脱者の支援

石田 英治

 今年の4月に、第二東京弁護士会民事介入暴力対策委員会の委員長に就任しました。今年は委員会関係の仕事に忙殺されています。対外的な業務も多く、最近はオリンピック関係の暴力団排除協議会の出席要請が多くあり、先月も馬事公苑整備工事暴力団等排除協議会の設立総会に出席し講演をしてきました。

現在多くの業界で暴力団排除が進められていますが、政府が社会からの暴力団排除の方針を強く打ち出したのは、平成19年に犯罪対策閣僚会議幹事会申合せとして「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を公表してからです。その後、各地の自治体で暴力団排除条例が制定され、その流れがより強まりました。我々民暴委員会も暴力団排除を強く押し進め、各種の暴力団排除活動を積極的に支援してきました。

そして、上記の政府指針から10年近くが経過し、現在、暴力団員の数は大幅に減少しています。警察の公表資料によれば、平成19年末に暴力団構成員及び準構成員の数は約84,200人でしたが、平成27年末には約46,900人になっています。

暴力団が弱体化することは喜ばしいことですが、暴力団を脱退した者が更生するのは簡単なことではありません。暴力団から離れても、違法薬物の売買や特殊詐欺等の反社会的活動を続けている者は少なくありません。暴力団を辞めても、すぐに普通の生活に戻れるわけではなく、銀行の預金口座の開設もできませんし、普通に就職することも困難です。暴力団を辞めても堅気の生活ができないのであれば、生きていくために反社会的な活動に関わることは彼等にとっては自然なことなのかもしれません。

現在、当委員会では暴力団の離脱支援について研究をしています。特に注力しているのは暴力団を離脱したことを何らかの形で公に認定することができないかという点です。一旦警察に暴力団として認定され、事業者のデータベースに登録されると、暴力団を脱退しても簡単にはデータベースから削除されず、各種の取引から排除され続けるというのが現実です。もちろん、暴力団を脱退したと言っても偽装のケースが少なくなく、また、仮に脱退しても反社会的な活動を続けている者も多く、簡単に取引社会に戻すのも適当ではありません。しかし、心を入れ替えて真実更生した者まで排除され続けるのは問題です。この点、暴力団はこれまで多くの悪事をしてきたのだから我慢すべきだ、当然の報いだという主張もあります。確かに元暴力団に酷だとか、彼等にも人権があるという議論はなかなか理解されないところだと思います。しかし、普通の生活に戻ることはできないと諦めた彼等が反社会的な活動を続ければ被害者が増え続けることになります。暴力団排除活動を強力に推し進めた結果、暴力団ではない反社会的勢力を増やしたということでは何の意味もありません。治安対策の観点からも、暴力団離脱者に対する支援は必要であるというのが我々の基本的なスタンスです。

我々民暴委員会では、これまで暴力団の被害者から依頼を受け、暴力団を相手に訴訟を提起する等被害回復に傾注してきました。しかし、既に生じた被害を回復するために費やす作業量は膨大であり、かつ、確実に被害回復が図れるという保証もありません。暴力団員を真人間に更生させ、反社会的活動から足を洗わせ、そうでなければ将来生じるかもしれなかった被害の芽を事前に摘むという被害予防の考えは非常に効果的だと思っています。

最近では、警察も離脱者の支援に力を入れ始めましたが、離脱の公的認定については消極的なように思います。一番の理由は偽装離脱者等による悪用の可能性のようです。警察には離脱の公的認定の必要性を提言しているのですが、なかなか理解してくれません。確かに難しい面があることは否定できませんが、離脱者の支援には離脱の公的認定が極めて重要であり、また、この制度の実現を推進できるのは弁護士会しかないと考えており、私が委員長を務めている間に何とか実現したいと思い、委員会活動に注力しています。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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