弁護士コラムバックナンバー

相続に関する興味深い相談事例

綱藤 明

1 はじめに

1 最近、相続に関するご相談、ご依頼を受けることが増えています。その中で、特に興味深い事案を一つご紹介致します。ご相談の概要は、「共同相続人3人(A,B,C)で、不動産をAの単独所有とする旨の遺産分割協議書を作成しましたが、その後、Bが翻意し、印鑑証明書の提出に応じようとしません。このような場合でも、不動産の登記名義をAに移転する方法はあるでしょうか。」というものでした。このご相談に対する回答としては、以下の三つが考えられます。

(1)まず一つ目として、Aが、Bを相手として遺産分割協議書の真否確認の訴えを提起し、勝訴の確定判決を得る方法が考えられます。この方法による場合、Aは、勝訴の確定判決、登記に協力するCの印鑑証明書、遺産分割協議書を提出することで、遺産分割協議に基づく相続登記を単独で申請することが可能となります。

なお、下級審の判例ですが、「遺産分割により被相続人名義の不動産を単独取得した相続人は、他の相続人が登記申請に必要な印鑑証明書の交付を拒んでいるときは、その他の相続人に対し、その印鑑証明書の添付なくして単独で相続を原因とする所有権移転登記をすることができるために、相続を原因とする所有権移転登記手続をするように訴求することができる」とするものがあります(大阪高判昭56.4.10)。しかしながら、相続登記は、『遺産分割により被相続人名義の不動産を単独所有した相続人』の単独申請の構造をとり、他の相続人は登記の申請義務者ではないことに鑑みれば、民事執行法174条の規定に基づき他の相続人が登記申請の意思表示をしたものとみなされても無意味であって、不動産登記法63条1項(判決による登記)の適用はなく、Aが『BはAに対し相続を原因とする所有権移転登記手続をせよ』との判決を得ても、これによっては、Aは、相続登記をすることができないと解されています(昭53.3.15民三第1524号法務省民事局第三課長依命回答)。

(2)二つ目として、Aが、Bを相手に、『遺産分割協議の結果、Aが本件不動産を相続したことを理由』として所有権の確認訴訟を提起し、勝訴の確定判決を得る方法が考えられます。すなわち、Aは、共同相続人であるA、B、C名義の遺産分割協議書を作成し(もっとも、Bの署名、押印はありません)、登記に協力するCの印鑑証明書と前記勝訴の確定判決及び戸籍謄本等をあわせて提出することで、Aの単独申請により相続登記をすることが可能となります。

(3) 三つ目として、Aが、本件不動産について共同相続の登記をし(この登記は、共同相続人の一人であるAが単独で申請をすることができます)、そのうえで、Aは、登記に協力しないBに対して、遺産分割を原因としてその共有持分の全部をAに移転することを求める移転登記請求訴訟を提起します。Aは、その勝訴判決を得て、不動産登記法63条1項に基づき単独申請を行い、また、登記に協力するCの共有持分については、Cとの共同申請により移転登記をすることになります。

2 私がご相談を受けた方は、遺産分割協議から10年以上にわたり、何人もの弁護士や司法書士にご相談をされたようですが、いずれも解決に至らなかったとのことでした。その原因は、以上に述べた(1)から(3)の方法を、専門家が十分に理解していなかったことにあると思われます。以上に述べた(1)から(3)の方法は、『どれでも良い』という訳ではなく、ご相談者の特性に応じて、適宜使い分けることが肝要です。なお、私がご相談を受けた方は、(1)と(3)の方法を使うことができなかったため、(2)の方法を採用し、無事、解決に至ることができました。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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