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一括下請負の禁止について

綱藤 明

1 一括下請負の禁止

(1) 建設工事の発注者が受注者となる建設業者を選定するに当たっては、過去の施工実績、施工能力等、様々な角度から当該建設業者の評価・選定するのが通常です。それにもかかわらず、当該建設業者が、受注した建設工事を一括して他人に請け負わせることは、発注者が当該建設業者に寄せた信頼を裏切ることになります。

(2)このため、建設業法第22条は、如何なる方法をもってするを問わず、建設業者が受注した建設工事を一括して他人に請け負わせること(同条第1項)、及び建設業を営む者が他の建設業者が請け負った建設工事を一括して請け負うこと(同条第2項)を禁止しています。

同条第1項の「如何なる方法をもってするを問わず」とは、契約を分割したり、あるいは他人の名義を用いるなどのことが行われていても、その実態が一括下請負に該当するものは一切禁止するということです。

また、同条第2項の禁止の対象となるのは、「建設業を営む者」であり、建設業の許可を受けていない者も対象となります。

2 では、一括下請負とはどのような場合をいうのでしょうか。

(1)次のような場合は、元請負人がその下請工事の施工に実質的に関与していると認められるときを除き、一括下請負に該当します。

① 請け負った建設工事の全部又はその主たる部分を一括して他の業者に請け負わせる場合

② 請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の工事を一括して他の業者に請け負わせる場合

(2) なお、「実質的に関与」とは、元請負人が自ら総合的に企画、調整及び指導を行うことをいいます。単に現場に技術者を置いているだけではこれに該当せず、また、現場に元請負人との間に直接的かつ恒常的な雇用関係を有する適格な技術者が置かれない場合には、「実質的に関与」しているとはいえないことになりますので注意が必要です。具体的には元請負人が次の①から⑪をすべて行うことが必要です。

①技術者(直接的かつ恒常的な雇用関係を有する適格な技術者の配置)、②発注者との協議、③住民への説明、④官公庁等への届出等、⑤近隣工事との調整、⑥施行計画、⑦工程管理、⑧出来型・品質管理、⑨完成検査、⑩安全管理、⑪下請の施行調整及び指導監督

3 もっとも、一括下請負の禁止については例外が設けられています。民間工事の場合、元請負人があらかじめ発注者から一括下請負に付することについて書面による承諾を得ている場合は、一括下請負が例外的に認められることとされています(建設業法第22条第3項)。

4 「実質的に関与」(前記2)しているか否かについては、往々にして判断が分かれるところですので、一括下請負の禁止に違反しないためには、事前に書面による発注者の承諾を得ることが不可欠であると考えます。

以上

(参考)

建設業法第22条 建設業者は、その請け負つた建設工事を、如何なる方法をもつてするを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない。

2 建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負つた建設工事を一括して請け負つてはならない。

3 前二項の規定は、元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得た場合には、適用しない。

4 (略)

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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