弁護士コラムバックナンバー

医療事件の進め方

木原 右

1 相談

 通常の民事事件と同様に、医療事件においても、まずは相談から始まる。

 ただ、相談を充実したものにするためにも、事前に、被害の内容、診療経過などについてまとめたものを、依頼者からもらっておくことが望ましい。必要事項をもれなくまとめてもらうためには、相談票など弁護士が準備した一定の書式に記入してもらう方法がよい。

 最近では、相談前に医療機関からカルテ開示を受けている依頼者も多数いる。その場合には、カルテなどの資料も事前に送ってもらうことが望ましい。

 相談において弁護士は、依頼者から聴取した事柄をもとに、責任追及の可能性があるかどうか、ある程度の見通しをつける。およそ責任追及が困難と思われる事案は、残念ながら、その旨依頼者に告げ、相談の段階で終了となる。検討するための資料が不足している事案では、依頼者に資料の取得を依頼し、あらためての相談を実施することになる。

 責任追及の可能性がありそうな事案は、次の調査の段階へ進むことになる。

2 調査

 医療事件の進め方で特徴的なのは、示談交渉・訴訟などの受任をする前に、調査という段階を経ることである。調査を行うに際しては、依頼者と調査委任契約を締結することとなる。

 医療事件においては、通常の民事事件とは異なり、短時間の検討で、相手方(医療機関)に対し責任を追及できるかどうかを判断することは難しい。カルテを入手して精査し、医学文献を調査し、そして、協力医の意見を聴取し、また、場合によっては医療機関に対し説明会の開催を求めてそれを経た上で、法的観点から整理し、有責の可能性があるかどうかを判断することとなる。そのため、調査には数か月単位での時間がかかることもしばしばである。

 なお、カルテの入手方法には、大まかに言えば、「カルテ開示」と「証拠保全」とがある。

 カルテ開示は、医療機関に依頼して任意にカルテを開示してもらうことである。一般的に費用が安く、記録入手までの時間が比較的短い。その一方で、医療機関に拒否される可能性も否定できず、またカルテ改ざんの可能性は証拠保全に比して相対的に高いといえる。ただし、最近の大病院では電子カルテを導入するなどしており、昔に比して、カルテ改ざんが行われる可能性は相当程度減少しているのではないだろうか。

 証拠保全は、裁判所に申し立てて行うことになる。改ざんの可能性は相対的に低く、また、拒否される可能性も低い一方で、費用が高額となり(謄写費用、カメラマンの費用などがかかる。)また、記録入手までの時間が長く、数か月かかる場合もある。

 最近では、厚生労働省から「診療情報の提供等に関する指針」(平成15年9月12日制定、平成22年9月17日改正)が出されていることもあり、医療機関もカルテ開示には協力的であることが多い。そのため、現在では、「カルテ開示」が原則的なカルテ入手方法といってもいいだろう。

 このような調査を経て、残念ながら責任追及困難と判断すれば、その旨依頼者に報告し、断念することとなる。有責の可能性ありとなれば、次の段階へ進むことになる。

3 訴訟など

 有責の可能性ありとなれば、次の段階として、どのような解決手段(示談交渉、訴訟、医療ADRなど)を選ぶかを検討することとなる。この段階で、あらためて委任契約を締結することとなる。

 訴訟となれば、証拠として、医学文献を提出することはもちろん、協力医の意見書も提出することが望ましい。そのため、調査の段階で、意見書の作成をお願いできる協力医を見つけることができるかどうかも重要である。

 なお、東京地方裁判所の医療集中部においては、診療経過一覧表の作成や書証についてABCに分類して書証番号を付けるなど、通常部とは異なる独特の運用がなされてる。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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