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区分所有法59条競売の活用について

綱藤 明

1.区分所有者が、長期間に渡りマンションの管理費・修繕積立金を滞納している場合、管理組合はどのような対応をすればよいのでしょうか。

通常は、管理組合あるいは管理会社名で滞納者宛に内容証明を送付し、支払いを催告することになりますが、これだけで支払いがなされるとは限りません。

その場合、次の段階として、滞納者宛に管理費・修繕積立金の支払請求訴訟を提起することになりますが、実は、当該訴訟によっても、管理費・修繕積立金の回収を図れない場合が多いのです。すなわち、管理組合が当該訴訟に勝訴したとしても、滞納者が管理費・修繕積立金の支払いを拒む場合には、滞納者の所有するマンション(区分所有権)を強制競売したうえで、管理費・修繕積立金を回収することになります。ところが、滞納者の所有するマンションには、マンションの時価を大きく上回る抵当権が設定されていることが多く、その結果、競売手続は無剰余取消(民事執行法63条2項、執行手続が、国家権力の発動による強制的な財産処分である以上、無益な執行は排除されるべきであるとの趣旨)がなされてしまうことが多いからです。

2.そうすると、管理組合としては、管理費・修繕積立金の滞納額が日々膨らんでいくのを黙って待つしかないのでしょうか。

このような場合に、活用をお勧めするのが区分所有法59条競売の規定です。

59条競売とは、ある区分所有者が他の区分所有者の共同の利益を著しく障害し、他の方法によっては障害の除去が出来ない場合(滞納者宛に管理費・修繕積立金の支払請求訴訟を提起し、強制執行を試みたが無剰余取消がなされた場合、あるいは管理費・修繕積立金の回収が不奏功に終わった場合等)には、管理組合は、その区分所有者が所有する区分所有建物(敷地利用権を含む)の競売を請求できるとする規定です。

そして、59条競売のメリットは、たとえ当該マンションに時価を超える抵当権が設定されている場合でも、前記の無剰余取消がなされることなく、競売を実施できる(東京地裁ではそのような運用がなされている)という点にあります。

本件のように、区分所有者が、長期間にわたり管理費・修繕積立金の支払いを滞納しており、管理組合が管理費・修繕積立金の支払請求訴訟で勝訴しても、滞納者が支払いに応じないというケースでは、管理費等の長期滞納が、他の区分所有者の共同の利益を著しく障害する場合に当たることはあまり争いがありません。従って、管理組合が管理費・修繕積立金の支払請求訴訟を提起し、強制執行を試みたが無剰余取消がなされた場合、あるいは管理費・修繕積立金の回収が不奏功に終わったような場合には、59条競売が認められることになります(なお、手続的には、管理組合が総会を開き、全区分所有者及び議決権の4分の3以上の賛成を得たうえで、59条競売訴訟を提起することになります)。

3.では、管理組合が59条競売訴訟に勝訴した場合、その後、管理組合はどのようにして管理費・修繕積立金を回収するのでしょうか。

まず、注意しておきたいのは、59条競売代金から、直ちに管理費・修繕積立金を回収することはできないということです。59条競売による競売代金は、管理組合が裁判所に納めた予納金の返還や抵当権者への配当に充てられるため、競売代金から管理費等の回収を図ることはできないのです。

では、管理組合は、どのようにして管理費・修繕積立金を回収するかというと、区分所有法8条の規定に従い、新しい区分所有者から管理費・修繕積立金を回収することになります。すなわち、59条競売により、区分所有者は滞納者から新所有者に代わることになりますが、新所有者は、区分所有法8条により、旧所有者が負担していた管理費等の支払い義務を承継することになるため、管理組合は、この新所有者から滞納管理費・修繕積立金を回収することになるのです(新所有者は、通常、新たにマンションを購入するなど資力に問題がない正常な入居者であり、滞納管理費・修繕積立金の支払いをするのが通常です)。

4.このように、滞納管理費・修繕積立金を回収するためには、59条競売が非常に有効(かつ最終手段)と考えられますが、滞納管理費・修繕積立金の累計額が余りに高額になると、マンション区分所有権の買受人が現れない等の問題も生じるため、管理組合は、早いタイミングで59条訴訟を検討することが望ましいと考えます。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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