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口コミサイトとステルスマーケティング

高木 篤夫

 ステルスマーケティングという手法が問題になっている。

 口コミサイトについて,消費者庁が平成23年10月23日に公表した「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(以下「留意事項」といいます。)で,口コミサイトにおけるサクラ記事など,広告主から報酬を得ていることが明示されないカキコミ等を検討している。

 この消費者庁の「留意事項」によれば,「口コミサイト」とは,人物,企業,商品・サービス等に関する評判や噂といった,いわゆる「口コミ」情報の交換を主な目的とするサイトを指す。

 口コミサイトとしては,(1)口コミ情報の交換を主な目的とするサイトのほか,(2)旅行情報,グルメ情報,商品情報等を掲載するサイトが,サービスの一環として,旅館,飲食店,商品等に関する口コミ情報を交換するサービスを提供するものが代表的である。さらに,(3)ブログ等,個人が情報を提供するウェブサイトにおいても,ブロガーの「おすすめ商品」等に関する情報提供がおこなわれることがあり,こうしたブログなども口コミサイトの一つに数えることかできる。

 たとえば,ぐるなび,価格コム,食べログなどのいわゆる口コミサイトでは,一般ユーザーからの特定の販売店などの投稿がその店舗の評価につながるものとされる。口コミサイトに掲載される情報は,一般的には口コミの対象となる商品・サービスを現に購入したり利用したりした消費者や,当該商品・サービスの購入・利用を検討している消費者によって書き込まれているということが,口コミとして掲載されていることが前提となっている。

 最近,口コミサイトに関連してマスコミの話題にのぼるのは,商品・サービスを提供する事業者が,顧客を誘引する手段として,口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し,又は第三者に依頼して掲載させ,当該口コミ情報が事業者の広告・宣伝手段になっている,あるいは事業者からそのようなヤラセ投稿を請け負う業者が跋扈しているということである。

 消費者庁の「留意事項」では,「商品・サービスを提供する事業者が,口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し,又は第三者に依頼して掲載させる場合には,当該事業者は,当該口コミ情報の対象となった商品・サービスの内容又は取引条件について,実際のもの又は当該商品・サービスを供給する事業者の競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるもの」である場合には,景品表示法上の不当表示として問題となると指摘している。この場合の,法的責任の主体は商品・サービスを供給する事業者自体であって,ヤラセ投稿の請負業者自体の法的責任を問いにくい構造になっている。

 消費者に宣伝と気づかれることがないように宣伝する手法であるステルスマーケティングとしては口コミサイトのヤラセ投稿だけでなく,芸能人等を使ったブログでのヤラセ書き込みなどもあり,リアル・ワールドでもサクラを使って購入させたり,店舗に行列を作ったりする,おこなわれることもあった。米国のFTC(連邦取引委員会)では,「CHAPTER I–FEDERAL TRADE COMMISSION PART 255–GUIDES CONCERNING USE OF ENDORSEMENTS AND TESTIMONIALS IN ADVERTISING」(推奨および体験談の広告への使用に関する指針)の中で,広告主が商品・サービスの推奨表現について推奨者に対して商品・サービスの無償提供や記事掲載への対価の支払がなされるなどの行為があった場合において,推奨表現をとおして虚偽若しくは裏付けのない表現をし,又は事業者と推奨者との関係を開示しなかった場合には,FTC法5条で違法とされる「欺瞞的な行為又は慣行」にあたり,広告主は法的責任を免れないとされている。また,イギリスでは不公正取引としてステルスマーケティング自体を消費者保護規制のひとつとして違法としている。(The Consumer Protection from Unfair Trading Regulations 2008)

 日本法では上記のとおり,ステルスマーケティングに対しては現在のところ景品表示法上の問題が指摘されるだけである。口コミサイト運営事業者にとっては,口コミの適正さに消費者が疑念を抱くことは自らのサイトのビジネスモデルを害することから,積極的にこれを防止する動機付けがなされはするのでその排除を行う施策を講じている。また,口コミサイトのやらせ書き込みを請け負う事業者から勧誘される口コミサイトに掲載される店舗等の事業者は,勧誘を断ればネガティブな情報を書き込まれるのではないかなどの不安も生じているし,逆に否定的な評価を中傷対策だとして削除を請け負うことを勧誘してくる業者もあるという。(産経新聞平成24年1月15日)

 ステルスマーケティングが発覚すれば,広告主自身の評価を落とすことにもつながりかねないが,ステルスマーケティングであるかどうかは検証がむずかしい面があり,一定程度一般消費者を装ったヤラセ口コミが混在していることは避けられないのが現実であろう。

 結局は,口コミサイト問題にとどまらず,インターネット上の情報の信頼性は常にユーザー側が吟味して取捨選択することが必要であるという原則を忘れないことが必要であるということに尽きる。個々人のメディア・リテラシーの問題として考えられよう。
原発事故の政府公表やマスメディアの報道にもみられるようによりオフィシャルな,あるいは権威があるとみられていた情報さえどこまで信じられるのかという問題がある昨今である。媒体の読み方の能力としてメディア・リテラシーの重要性は今後ますます高まっている。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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